そこの、チミ! #解説編

★日本語【役割語】

 

 

すまん、すまん、待たせたね。

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さて、お待たせしました。役割語についての解説です。
役割語とは聞きなれない用語かもしれませんが、
近年、日本語学で熱い注目を集めている、話し方の一種です。

ウリすけは、ただの(かわいい)猫ですが、
今回のようなセリフをかぶせると、いっぱし大物感が漂います。
年齢は60過ぎ、この世界で威を張ってきた、やや黒い感じの人。
ここでそんな印象をもたらしているのが、以下の口調です。

 ・楽にしたまえ。
 ・うまく行っとるかね?
 ・何だと?
 ・忘れようじゃないか。

しかし、現実の「大物」がこんなしゃべり方をするでしょうか?
黒いかどうかは別として、現実の社長さんとか部長さんとか、
はたまた町内会長さんとかを思い浮かべてみてください。
テレビドラマの社長さんたちじゃなくて、現実の、です。

わが身辺に「社長」がほとんど存在しない現実はさておき、
少なくとも私は、実在の人物がこんなしゃべり方をするのを
これまで聞いたことがありません。

でも、ドラマや外国映画の吹き替えではしょっちゅう聞くし、
映画の字幕や漫画の吹き出しや小説のセリフでもよく見ます。

つまり、現実には(冗談以外では)ほぼ誰も使わないのに、
いかにも○○みたいな感じを与えるしゃべり方

――それが、役割語です。

重役風だけではなく、ほかにもいろいろあります。

 ・あら、いやですわ、そんなことおっしゃっちゃ。

 ・見てみい。これがワシの新発明じゃ
 ・オラ頭悪いだで、何にも知らねえだよ
 ・わたし、悪いない。お前、あやまるあるよ。

さらには、たぶん本当に誰も聞いたことのないのもあります。

 ・ワレワレワチキューオセーフクスルタメニキタ。
 ・ウリはそんなこと言ったことないですにょ

だから、セリフに役割語を使い過ぎる脚本家や小説家は、
リアルな会話を書く力がない人だと言えるかもしれません。
でも、表現者にも受け手にも役割語の了解があるからこそ、
日本語の小説の会話は、とてもテンポのいいものになります。
いちいち「と彼は言った」だの「と彼女は笑った」だの、
発話者を知らせなくても、誰のセリフかわかるからです。

それでもやっぱり、注意してほしいな、と思うのは、
新聞や雑誌のインタビュー記事です。
黒人男性アスリートの 'I' を、無条件に「俺」と訳したり、
ハリウッド女優の談話の文末にやたら「わね」を使ったり、
そういうのって、余計なナニカ、言わなかったナニカ、を
記録者が勝手に付け加えることになると思うからです。

それと、留学生相手の日本語の読解授業などでは、
音読という作業をバカにしてはいけません。
アクセントやイントネーションの担うものは大きいのです。
読書をするときに、大人は声なんて出さないものですが、
外国語としての日本語を読むときには、欠かせません。

「いやですわ」というセリフひとつとっても、
思わぬ落とし穴が待ち構えていたりするかもしれず、
音読によって、学習者が穴に落っこちるのを救えるからです。

 ・あら、いやですわ、あたくし、そんなこと。
 ・いやですわ、そんなん、ワテようしまへん。

 

レースの日傘のマダムか、汗だくの大阪のおっちゃんか。
その落差は大きい。

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=日本語学習者のみなさんへ=

タイトルの「そこの、チミ!」の「チミ」は、「キミ(君=あなた、お前)」のことです。「ち」と「き」は、発音に使う口の中の場所がとても近いので、方言などでもしばしば入れ替わることがあります。そして、話し相手に向かって「ちみ!」と呼びかけるのは、役割語の一つで、「社長さん風」です。しかも、鼻の下に「ちょびひげ」を生やしているようなイメージの社長さんです。

コメント

英語には日本語ほど役割や性別や年齢による細かい話し方の違いがありませんから、
今回のテーマはうんと身に染みる問題だというのに、
『役割語』という言葉を知りませんでした。
優秀なATOKくんをもってしても一発変換できず。
役割後と出ましたが、もう覚えてくれました。

以前、ある言語で書かれた芝居の脚本を英訳したものを日本語にせよと届いた原稿には
ト書きもなければ話者の特定もなく、誰がしゃべっているのか皆目わからず。
そもそも脚本といったら会話がすべてなのに!
紆余曲折(ここは長いので省略)を経て、話者を特定してから取りかかったという
オソロシイ体験をいたしました。

チミ、きみ、おまえ、あなた、そなた、貴公、てめえ、おのれ、おんどりゃあ……、
なんとたくさんの情報が含まれていることか!
表現者にも受け手にも役割語の了解があるというのは、
かように重要でありながら、おっしゃるとおりリアルな会話とはかけ離れて、
凡庸におちる危険も表裏一体。
インタビュー記事はまさに日頃思っていたことでそうそう、と膝を打ちました。
そのヒトの人柄まで固定しかねない重要な問題だと思います。
海外のミュージシャンのインタビュー記事がみんないっしょくたに
ぶっきらぼうな語り口に訳されているのを見るとイラッとするけれど、
自分だってやりかねない。それが役割語なんですね。

今日の記事もとても読み応えがあっておもしろかったです!
お勉強に(なった気に)なりました。
おもしろい授業ってわくわく聞いてするする入ってくるものだから、
あとで全然説明できないという、あれです。
想像力を働かせることができたのはウリさんの名演のお陰です。
ウリさん、ありがとう!
脈絡のない長文でお邪魔しまして、失礼しました〜〜!

『チミ』でまず頭に浮かんだのは社長もしくは駅前シリーズの映画のセリフです。
今見てもなかなか楽しめる映画ですが、こうした映画やドラマなどを日本語学習の教材として使うことはあるのでしょうか。あるとしたら学習者の反応にとても興味がわきます。

  • おっチョコ
  • 2016/07/05 11:45

何だか,すっごぉ〜く勉強になりました (⌒▽⌒)ノ
おばさまの例文のようにドラマの吹き替えで・・・
中国のかたの言葉は,ホントそう吹き替えられるし
年配の男性のかたは『ワシじゃ』になってます!!
子供の頃から馴染んでしまっていて普通に聞き流れていたけれど
海外のかたは,このニュアンス通じているのでしょうか ;

  • ж∫цж
  • 2016/07/05 12:28

連投すみません (〉_〈);
グリコさんとウリちゃまのも役割語なのですね♪
とっても,ふたりのキャラが想像し易いです ^^

  • ж∫цж
  • 2016/07/05 12:45

今日は小学生相手の「〜出前講座」という授業に参加してきましたが、こちらが講師という立場で居るので、私が近所の小母さんであっても、「ハイわかりました」「私はこう思いますー」「それはつまリ…」と答えるので、
彼らのセリフだけを文字で読んだら、年齢も性別も分かりませんね〜

今日の内容から「そうだ!」と頷いたことは、インタビュー記事での違和感です。自分の話がどのように翻訳?されているのか知ったらとても不愉快になるのでは?内容については私には解りませんけど…
でも、子供の頃から見慣れた洋画の字幕では、確かに人物像のイメージがし易かったですけど・・・

★「役割語」って、とても役立っているんですねッ(=^・^=)

  • himetarou
  • 2016/07/05 19:06

役割語、知りませんでした。

インタビュー記事をまとめる時、私は安易に役割語に頼っていないか、
つ〜と冷や汗が背中を流れます(^^;)

  • 伽美
  • 2016/07/06 16:45

役割語、初めて聞きました。
そうか、そうだったのか、うんうん、なるほどーと
PC前でこくこく首を縦に振っている私。
面白くためになりました♪
役割語をかぶせると、ただのすご〜〜くかわいく素直な猫さんも
大物感が漂うのですね、ふむ。
ところでウリさんの灰色の野望は叶ったのでしょうか?
すご〜〜〜くかわいく素直なエリカラつけた猫さん、お大事に。


◆みなさま、コメントをありがとうございました。
 お返事が遅くなりまして、すみません。◆

◇こてちさん◇
おお、さすがにご商売柄、熱い反応をありがとうございます。母語にある(ない)カテゴリーが対象の言語にない(ある)とき、その違いはなかなかお腹の底からは理解できないものですよね。私の場合、中学1年のときから慣れ親しんでいるはずの英語ですが、複数・単数の別はいまだ理解したとはいえず、ひいては冠詞も使いこなせません。カナシイ.....。逆に、日本語の話し言葉における豊かな(豊かすぎる!)人称詞の世界は、単なる記号のような人称代名詞しか持たない英語などの言語から見たら、なんじゃこりゃ!でしょうね。その二つの世界をつなぐおしごとのご苦労がしのばれます。でもその苦労を乗り越えてうまく訳せたときの快感も、また大きいのでしょうなあ。

◇おっチョコさん◇
あまりに多くの背景知識が必要なものは、通常の教材には向きませんけれど、もちろん学習の段階や目的によっては、あえてディープな世界を含むナマの素材を使うこともあります。スリル満点ですが、狙い通りにうまく行ったときは、ええ、カ・イ・カ・ン♪です。

◇ж∫цжさん◇
こてちさんへのお返事にも書きましたように、「そういうカテゴリーのない言語」を母語とする人々にとっては、理解しがたい部分もあると思いますが、それもこれも含めての日本語ですから、学習段階に応じて紹介します。上級になると、あえての役割語を自在に使って、冗談を言う人もいますよ。

◇himetarouさん◇
そうなんです。デス・マスの丁寧体を使えば、妙な性差やキャラ付けは回避できるのです。翻訳インタビュー記事はすべてそうしちゃえばいいのにと思いますね。実際、ほぼ初対面のインタビュアーに対して、アスリートもロック歌手も、「丁寧体」でしゃべってるはずなのですから! して、himetarouさんは、何を出前なさったのかしらん? 興味津々。

◇伽美さん◇
お! そういうおしごとをなさっているのですね。himetarouさんへのお返事にも書きましたように、「丁寧体」モードで話していたはずの人の談話は、無色透明な丁寧体の日本語にする、ということを、そろそろ考えてもいいんじゃないかなあ、と思います。役割語に慣れ親しんだ読者の思い込みを崩していくのは大変かもしれませんが、少しずつでもそういう意識を持つ編集者やライターさんが増えるといいな、と思います。(役割語のイイ面やオモシロイ面を否定するものではありません。)

◇ぽぽろさん◇
ただのかわいすぎる灰色しましま猫は、きょうも素直にエリカラをつけています。傷になってしまったところも乾いてきたし、あしたには野望が実現するかなあ。実現させてやりたい。エリザベスするには暑すぎる関東地方です。北の大地からのお見舞い、伝えますね。

  • ニャンタのおば
  • 2016/07/07 20:12