ドラマちック #本編

★日本語【タ行の発音】


 

 

朝ごはん待ちのウリ猫の目が、
やけに印象的に見えた件()につきまして、
これをドラマックと称すべきか、
ドラマティックと号すべきか――、

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どっちゃでもええわい、という声も聞こえそうですけれども、
一席、おつきあいくださいませ。

(末尾に、おまけ写真あります。)

 



 

タ行の発音について】

 

日本語の五十音表は、じつによくできていると思います。

日本語を成り立たせている音の種類を網羅しているばかりでなく、

その並べ方がまた、理路整然。

5つの母音と各行共通の子音を縦横に組み合わせた、みごとな配列です。
 

しかも、これが動詞の活用表も兼ねちゃうというんですから、

世界にも類を見ない、すばらしいリストではないかと思います。
 

ただし、その各行「共通の子音」というところに、

ごくわずかな、ズレというか乱れが見られる行も、あります。
サ行、ザ行、タ行、ダ行、ハ行です。

きょうは、タ行について、ちょっと細かく見てみましょう。


 

タ行の5つの音を発音するとき、舌の位置や口内の接地面積、
接地後の舌の動きなどをよーく観察してみると、
じつは3種類の子音が混じっていることに気がつきます。

そのそれぞれの子音に、アイウエオの5母音を続けて発音し、
改めて整理し直すと、タ行は、つぎの3行に分裂します。

     ティ  トゥ  テ   ト
 

 

  チャ  チ   チュ  チェ  チョ
 

 

  ツァ  ツィ  ツ   ツェ  ツォ

 


 


で、さて、冒頭のウリ猫に降り注ぐ朝日の形容に戻ります。

原音に、なるべく忠実に発音するとすれば、
 

  ドラマティック


でなければなりませんが、いささかキザに響くようでもあります。
今、ざっとググってみたところ、両者のヒット数は以下の通り。


  ドラマック  91万3千件

  ドラマティック 69万4千件


これを見る限り、今のところはまだ、「チ」が優勢のようです。

でも、たとえば化粧品だとかマンションだとかの広告では、
「ティ」という表記のほうが、多く見受けられます。
キザであることがむしろ求められるような文脈では、

「ティ」の方が、好まれるということなのでしょう。

実際、日本語に移入された時期の早い外来語は、「チ」が多く、
歴史の浅い外来語ほど、「ティ」で書かれることが増えます。
 

 

「チ」のほうがしっくりくるもの:

  スチール、チーム、チケット、プラスチック、

  エチケット、チベット、スチームアイロン

 


「ティ」のほうがしっくりくるもの:

  ミルクティー、パーティー、ボランティア、シティー
  クリエイティブ、エグゼクティブ、アイデンティティー


ちなみに、日本語に入ってからの歴史がうんと長い語の中には、
「ティ」でも「チ」でもなく、「テ」というのもあります。

  スッキ

英語の 'stick' から来ているはずですが、
これなどは、その後、おもしろい展開を見せています。

  スティック

「スティックのり」「スティックサラダ」とかの、スティック。
表記を異にして、ステッキとの役割分担を確立させています。
これが「ステッキのり」じゃ、文房具としては巨大すぎるし、
野菜嫌いの子に「ニンジンステッキ」を出したら泣くでしょうね。


ともあれ、「チ」より「ティ」は新しい感じがあるのでしょう。
同じ 'steam' から入ってきたはずのカタカナ語でも、
おなじみ家電のアイロンでは「スチーム」と表記されるのに対し、
おしゃれ美容家電や、電子レンジ用のシリコン製蒸し器などでは、
「スティーム」や「スティーマー」と書かれることが増えます。

歴史の深浅によって、使い分けられているわけですが、
おもしろいことに、それを逆手にとってわざと古い形を使うことがある。
たとえば、「きょうはお刺身ぱーちーだ。」なんて言いませんか?
あるいは、「アイデンチチーの危機を感じちゃうぜ。」とか?

パーティーなんてそんなしゃれたもんじゃないんですヨ、と言いたい、
あるいは「じつはよくわかってないんですけどね感」をアピールしたい、
――そんな微妙な気配を感じさせる、あえて、の「チ」ですね。

こういう繊細な感覚を生かしたことば遊びは、
わたくし、大好きです。
 


 

 

ついでながら、ここでみなさまの注意を喚起しておきたいと思います。

外来語は外国語ではない、ということです。

外来語は、日本語です。

外からやって来て(今や)日本語になった単語、です。
 

だから、発音が原語から遠くなるのは、ある程度やむを得ないことです。

だから、原音との違いに目くじらを立てても、さほど意味はありません。

日本語の文に原語をそのまま放り込むしゃべり方は、滑稽なだけです。
ルー大柴さんが狙っている滑稽さは、それでしょう?


また、使われているうちに意味がすり切れたり、ずれることもあります。

上の「ステッキ」と「スティック」は、その一例です。

だから、カタカナ語の乱用が英語習得を阻害する、だのという話も、
それはあまりに単純すぎる議論だろうと思っております。

そんなわたくしですが、どうにもイライラするのが、こちら。


  セーフ シティ, ダイバーシティ, スマート シティ.

東京都の広報などで、
近ごろ、ちょくちょく見かけるものです。

これが都民ファーストの目指す「新しい東京」なのだそうです。
「3つのシティを実現し、 新しい東京をつくる」のだそうです。


 

3つのシティって!
何それ!

何なのそれ!


東京都政策企画局というところから引用します。

英語の「Diversity(多様性)」と「City(都市)」の2つの言葉を一つに合わせて「ダイバーシティ」としています。

あんまりです!

カタカナ語の乱用が英語教育に害をもたらすと言うのであれば、
こういう無茶苦茶なことばいじりこそ、非難されるべきでしょう。

たしかに、「セーフ」と「スマート」のほうは、
「シティ」の前に半角スペースが空いています。
「ダイバーシティ」にはそれがなく、1語になっています。
だから「潜水士都市」じゃないのよ間違えないでね、と逃げは打ってある。
なんと姑息な。


これを「ことば遊び」とは呼びたくありません。
これは、ことばをもてあそぶ行為です。
日本語をオモチャにして、汚い手でいじくりまわす行為です。
とても、とても、不快です。
東京都政策企画局さん、日本語に、謝ってください。



朝っぱらから毒を吐いてしまいました。

ごめんなさい。
お口直しに、「かっこいい朝ごはん待ちウリすけ」を、どうぞ。


 

きりりっ!


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「3つのシティ」の悪口を、

なるべく穏やかに書こうとしたら、時間がかかってしまいましてな。

きのうアップできなかった言い訳です。

 

 

コメント

おもしろいです。
ことばって 生き物だと改めて思います。
ばぁちゃんは ベティさんをべてーさん(べてぇさん)と言っておりました。
時代が感じられて好きでした。

都民ファーストのわりに 多くの都民が理解しにくいカタカナ語を多用するのはおかしい気がします。
政治家のみなさん、お役所のみなさん どこを向いて話してらっしゃるの?
わかりにくい言葉より 難しいことを分かりやすいように話して下さい。
ねっねっきりりっ!ウリちゃん。
まっ 私都民ではありませんけどね。

  • きゃろりん
  • 2017/12/06 08:04

寝坊して食後の薬を飲んで、さて、久し振りにパソコンいじり!?を……

ん?? なになに? 成程なるほど!!
いやァーーー実に面白くて、目が覚めました\(^o^)/
「例」も、良く選んでいて、流石ですネ!!!
 
日頃、意味不明なカタカナ言葉?を並べまくる輩にウンザリしていたワタクシ、きゃろりんさんのコメにも同感!!!

さあ 今日こそ、ウリちゃんのようにキリリと姿勢を正して
過ごそう!−−−しかし、もう昼過ぎだわ‥‥(>_<)

  • himetarou
  • 2017/12/06 12:52

外来語は外国語ではない・・・
とっても解り易いです。
子音にズレがあるというのも,解説を見せていただいて
なるほど♪とドラマチックもドラマティックもズレの
中なんですね(^^)
キリリと背筋の伸びたウリちゃま,美しいですね〜(▽≦)
猫さんですもの,もちろん猫背のウリちゃまも,とっても
可愛いです!

  • ж∫цж
  • 2017/12/06 13:56


◇きゃろりんさん◇
ばぁちゃんのべてーさん♪ いいですねえ。タ行はタテトだけぢゃ!とおっしゃってるみたいで、耳が喜びます。/どうしてもそれでなければならないカタカナ語はたくさんありますから、一概にカタカナ語を排斥するつもりはありません。でも、政治家はことばがたいせつな商売道具のはずだし、お役所は窓口に来る人すべてに理解される努力をすべきなのに、小難しい漢語を振り回したり、安易なカタカナ語に頼るのは情けないです。今回の「3つのシティ」におよんでは、頼るどころか積極的にわけわからんカタカナ語を製造しちゃってるわけで、語学教師としては腹が立ってなりません。

◇himetarouさん◇
たまにはどうぞ、のんびりなさいませ。ひとときのお暇つぶしになったようで光栄です。後半は、腹立ちまぎれにお耳障りなことを述べ立ててしまいましたけれど。

◇ж∫цжさん◇
外来語は日本語なのに、妙に原音にこだわる方が少なくないのが気になっていました。しかもアクセントは日本語仕様のままだったりするので、「ルー語」よりもっとヘンテコなことになってしまいます。/猫はどんな格好をしててもうつくしい。ほんと、ズルイ生物ですわね。

  • ニャンタのおば
  • 2017/12/07 10:06

盛りだくさんでどこに反応したらいいのか、迷います。
「スティックサラダ」が出てきたので、
日頃思っていることが浮かんでしまうし、コマッタ困った。
英語ではほぼ、語尾に母音がくることはないので、
例えば、salad、 hard、 land を日本語にするにあたって、
なにか母音をくっつけないと発音できないわけで、
サラダ(a)ハード(o)ランド(o)になりますね。
サラダのように a がくっつくのはほぼ皆無なので、
サラダがなぜサラドにならなかったのか、ずーーっと気になっています。
外来語というのは本当に興味深いですね。

3つのシティーは笑止千万!
最初に聞いたときにがっくりしたことを憶えています。
ダイバーシティーはアナウンサー諸氏のなかにも
「潜水士都市」と同じ発音で読んでいらっしゃる方々がおいでです。
本来ならダイバーシティーのバーの部分にアクセントが来るべきなので、
外来語(として捉えるにしても)バーにアクセントをつけた読み方になるべきで、
英語に対してもシツレイだなぁと思っています。
そんな読み方を誘発した東京都政策企画局さん、日本語に、
そして英語にも、謝ってください。


◇こてちさん◇
 うわあ...... そうですか、「ダイバー・シティ」と発音する人がいましたか。やっぱりなあ。そりゃ、そうなりますよね。東京都、英語にも謝りなさい!
 ステッキとスティックを持ち出したとき、末尾の音に注目なさる方がおありだろうな、とは思ったのですが、今回の話からはずれるので、ないことにして話を進めておりました。やはりお気にかかりましたですね。
 ほとんどすべての音節が母音で終わる日本語の特性上、どれかの母音を当てはめなくてはなりません。たいていは口の開きの少ない(=狭い)母音、イかウが選ばれ、ステッキとスティック同様、インキとインクのように揺れるものが、以前からありました。そして、比較的広いはずのオも、よく使われます。おっしゃるとおりアが選ばれる例は少なくて、あるとすればポルトガル語のような、やはり母音で終わることの多い語が原語であるがほとんどではないかと思います。もしかしたらサラダも、英語からではないのかもしれませんが、今は調べ切れません。
 また、明治から昭和の初めころには、サラドと言っていた例がありました。いや、あったはず!と思い、かすかな記憶を手がかりに探したところ、以下の2例を見つけ出しました(『青空文庫』ばんざい!)。

・宮沢賢治『注文の多い料理店』
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌いですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」

・石川啄木『悲しき玩具』
あたらしきサラドの色の
 うれしさに、
箸をとりあげて見は見つれども――

正面からのお返事にはなりませんけれど、ご参考まで、取り急ぎ。

  • ニャンタのおば
  • 2017/12/07 17:54

あーー、口の開きの少ない母音が選ばれる!
英語のように唇を様々に動かさなくても話せる日本語らしい選択ですね。
なるほどぉーー。

そして、自分が情けなくなりました。
ポルトガル語を調べてみると、la salada 女性名詞でした。
そのまんま日本語になったんですね、きっと。
少しだけ勉強したスペイン語だってla ensalada ですもの、
そこに気づくべきでした。
英語が世界語みたいな認識があるのねぇ、ジブン。
一回認識をリセットしないとです。

宮沢賢治と石川啄木のどちらもこんなに有名な作品にありましたか!
こちらは英語から来ているということでしょうか。

丁寧に説明してくださって、青空文庫を当たってくださって
ありがとうございました!
個人授業をしていただいた気分です。

「ティ」と発音する方がなんとなく本格的、しゃれている、気取っている、
新しい感じだと漠然と思っていましたが、おばさまの丁寧な説明で
なるほどと腑におちました。
外国の言葉を自分の国の言葉の発音で表すのには限界があると思いますが、
私が今までに一番「えええ?」と思ったのは「サークル」でしょうか。
子供のころから「演劇のサークル」というような使い方で知っていた
カタカナ言葉ですが「セサミ・ストリート」でクッキーモンスターが
三角や丸をゆびさして歌うのをきいて「丸はセッコウっていうんだ…」と
思ってしばらくしてそれが「サークル」と思い至ったときの驚きたるや。
それこそ「サークル」は英語由来ではないのかも、オランダ語とか?と
思いました。

お役所って英語もどきのカタカナ言葉好きですよね。
ダイバーシティね…せめてダイヴァーシティでなくていいのか?とも思ったり。

  • 三毛猫
  • 2017/12/08 20:56



◇こてちさん◇
ご納得いただけたようでよござんした。英語が世界を席巻している現代、「外国語といえばすなわち英語」という発想になってしまうのは、まあ自然なことだろうと思います。でも日本語に外来語が増え始めた江戸後期から、それら外来語の出身地は、そのときどきの時代を映す鏡でした。カステラやカッパのような「古い外来語」は、オランダやポルトガル出身が多いですし、維新後は、急激に独仏英米が増えます。それも医療や山岳用語はドイツ、料理や服飾はフランスといった具合に、得意分野まで分かれていたりして、おもしろいですよ。/お返事の中で、サラダがポルトガル語出身かどうか今は調べ切れない、と書きましたのは、「いつ入ってきたか」「どこから入ってきたか」は、そうそう簡単に特定できないからです。国交が限られていた鎖国時代や、維新直後の「得意分野」が明確なころはさておき、各国入り乱れ、どっと文物が流れ込んでくるようになってからは、文献も錯綜しますし、カタカナ語としての初出がいつなのか、どこから来たのか、調べるのはごく難しいと思います。

◇三毛猫さん◇
「circle=セッコウ」、なかなか正確なお耳ではないかと思います。語末のLは、ほとんど母音ですもんね。わたくしも「pool=ぷぅう」としか聞こえませんわ。外国語が外来語として日本語に取り入れられるときのルートには、大きく2つあると思います。「音由来」と「文字由来」です。おそらくサークルは、文字由来なのでしょう。耳では「ウ」に聞こえるけど、つづりを見るとLだから、狭母音のウを足して「ル」としたのでしょうね。文字による矯正が働いた例だと思います。/ダイバーシティについては、わたくしの「怒り」を誤解なさっているようです。Vがバ行で表記されることには、さほど抵抗はありません。わたくしがアッタマ来た!と思うのは、これを「スマートシティ」「セーフシティ」に並べていることです。それによって「ダイバー・シティ」だと思う人がいるだろうということです。意味を無視して、偶然による音の一致を低レベルのダジャレ感覚で利用する、その根性が、もうもう、不愉快でならないのです。(ああ、また怒りが再燃!)

  • ニャンタのおば
  • 2017/12/09 10:54

ほんとうにおもしろいですね!
おっしゃるとおり分野ごとに出身地が異なりますもの。

カトル・カールというパンの名前の意味がわからなくて、
(英語が浮かぶと、curl になってしまう……)
店主に意味をたずねたら、フランス語で「4分の4」の意で
小麦粉、バター、砂糖、卵の4つの材料を同量、
という意味だと教えてもらいました。

いやーー、おもしろすぎて何度もすみません!
お返事は無用でございます!