2018.02.05 Monday
純毛モモヒキ
★日本語【貸すー借りる】
冬の陽ざしのもと、
猫が押さえ込んでいるのは、新聞の折り込み広告。
あら、お安い。
今や日本中の、いやさ世界中の寒冷地で愛用される防寒下着。
弓道をやる身としては、毎冬たいへんお世話になっております。
何しろあれは、ほとんど屋外競技ですからね。
冬季の試合などで更衣室を見回せば、ほぼ全員がヒートテック着用者。
身に着けるものといえば木綿や麻だけだった昔の人は、
つくづく、エラかったなあ。
ホカロンなどというものも、なかったわけだし、
いったい、どうやって耐えていたのかしらん。
先週末、試合があったのですが、
(結果については記憶が手元にございませんのでコメントを差し控えさせていただきます。)
矢道に雪の残る道場は、そりゃもうよ〜っく冷えておりました。
生きて帰れたのは、ヒートテック「極暖」のおかげ。
でも、さしもの「極暖」も、
これには負けると思うんですよね。
お日さまでじんわり蓄熱した、灰色しましま印の高級モモヒキ。
こんど、貸して。
※「貸すー借りる」などの、対をなす動詞のおもしろさについて(↓)。
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【「貸すー借りる」についてのお話
空間移動を表す下の図を、ことばで表現してみましょう。
動詞ひとつで表せと言われたら、どんな単語が浮かびますか?
東京 ⇒⇒⇒ 大阪
「大阪に行く」「東京から行く」のように、
「行く」を思い浮かべる方が多かったかもしれません。
でも、大阪の人たちは「来る」で表現したくなったことでしょう。
「大阪に来る」「東京から来る」のように。
「行く」と「来る」――、
同じ図に、まるで反対方向の2つの動詞が隠れていたわけです。
どちらを使うかを決めるのは、視点です。
物理的・心理的に、共感を寄せる方に、視点を置くのがふつうです。
どちらかといえば東京側という人は「行く」を思い浮かべたでしょうし、
諸事、大阪寄りの人は「来る」を使いたくなったでしょう。
同じことは、「貸すー借りる」にも言えます。
ウリ猫 ⇒[ももひき]⇒ オバ
ウリ猫から見たら「オバに貸す」だし、
オバから見たら、「ウリ猫に(/から)借りる」です。
英語を習い始めたとき、混乱しなかったでしょうか。
あの、borrow, lend, rent っていう組み合わせ。
lent(過去形)にいたっては、発音のせいもあって紛らわしさ2倍!
私なんぞ、いまだに混乱の渦中です。
中学校の教室で、rent は貸し借り両方に使えると教わったとき、
英語め、何といい加減な!と憤慨したものですが、
図にしてみれば、たしかに1枚の絵に描ける事態なのですから、
英語がそれほど理不尽なわけでもありません。
日本語の場合にも、同じような現象は珍しくありません。
必ずしも両側の視点が用意されている動詞ばかりではないのです。
たとえば、ウリ猫は、トイレ(大)の後、うれしそうに駆けまわり、
その際オバの前に、お土産を置いていくことがあります。
ウリ猫 ⇒[猫砂ひとつぶ]⇒ オバ
この行為は、「ウリ猫がオバに猫砂を渡す」と表現できるわけですが、
この「渡す」には、対になる動詞がありません。
これをむりやりオバ側の視点から描写しようとすれば、
「渡される」とか「渡してもらう」という形にするしかありません。
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もう一度整理し直して、追加の例を挙げておきましょう。
・矢印(⇒)の両端の視点にそれぞれ単語が用意されているもの
(例)行くー来る、貸すー借りる、あげるーもらう、
教えるー教わる、売るー買う、預けるー預かる、......
・ひとつの事象として全体図を表す一語しかないもの
(例)渡す、返す、帰る、相談する、しかる、ほめる、
呼ぶ、誘う、招待する、言う、......
一言語の中にもばらつきがあるくらいですから、
外国語学習で混乱するのは、しかたのないことです。
言語によって「世界の区切り方」が違う、ということですものね。
オバは目下、日本手話の学習歴4年目ですが、
この「区切り方」のずれは、日本語と手話のあいだにもあるんですよ。
語学学習の難しさとおもしろさは、こんなところにもあると思います。
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さきほどlent と rent の紛らわしさの悪口を言いましたけれど、
日本語学習者も、「かすーかりる」は音も近いせいで、よく間違えます。
日本語学習者との間で、物や金銭の貸借の際にもしも妙な話になったら、
身ぶりや矢印も活用して、誤解のないようにつとめてくださいね。
↓いつも応援、ありがとうございます。↓
矢道に雪の残る道場! ひーー、寒い。
ヒートテックはそりゃあもう威力を発揮して、
おばさまを助けたことでありましょう。
大昔にエベレストに登頂した登山家の装備など想像すると、
それだけで凍えます。
ふくふくと暖かい空気をためたしましま印の魅惑のモモヒキが
借りられるかどうかは別にしまして、
borrowとlend、テストには通用しないでしょうけれど、
日常はborrowだけで済ませられます。
そして済ませております、わたくし。
I will lend you my dictionary.
と、ドキドキしながらlendを引っ張り出してくる代わりに
You can borrow my dictionary.
と、安心して言うことにしています。
rentは主に賃借なので、rのほうだけ憶えて、
lのほうはほぼ忘れて暮らせるんじゃないかと。
視点の問題というのはかようにおもしろい!
こうして一覧にしていただくと考えてもみなかったことに気づきます。
そして言語によっても視点の置き方が違うでしょうから、
それをうまく使いこなすと自然な会話になるんですね。