2016.02.09 Tuesday
あってはならない
女子にあるまじきこのヘソ天ポーズ。
男子ならいいのか、という指摘は、
とりあえず脇に置いといて.....、
きょうは、
「あるまじき」という表現についてのお話です。
ついでに、謝罪記者会見などで耳にする、
「まことにあってはならないことで、遺憾です。」という謝罪が
ちっとも謝罪に聞こえない理由も、考えてみましょう。
ずいっと下のほうに、
ウリ猫のおまけ写真あります。
【あるまじきの解説】
「あってはならない」という意味の、文語表現です。
「〜まじき」は、否定の推量の助動詞「〜まじ」の連体形です。
もー、そーゆー文法用語は頭痛くなるからやめて!という方も、
この表現は、案外、ちょっとした会話の中で使っているものです。
・すまじきものは宮仕え。
≒勤め人はツライよ。するもんじゃないね。
・世に盗っ人の種は尽きまじ。
≒ドロボーがいなくなるなんてことは、ま、ないだろうね。
あるいは、デモのプラカードでも、見かけそうです。
・許すまじ、AB政権!
≒民主主義の破壊は、許さないぞ!
ここで、「あれ?」と思われた方は、スルドイ!
冒頭で、「〜まじ」は「否定の推量の助動詞」と書きましたが、
挙げた3例のうち、《否定の推量》に当たるのは、
現代語で「ない+だろう」と訳せる、「尽きまじ」だけです。
宮仕えの例は、「するべきじゃない」という《不適当》を表すし、
デモ隊の例は、「しないぞ!」という《否定の意志》を表しています。
どういうことでしょうね?
*
ずいぶん意味が違うように感じられますが、じつは根っこは1つ、
「〜まじ」の根本は、「まだ起きていないことの否定」です。
意味が分かれるのは、隠れている主語の違いによるのです。
ちょっとほかの助動詞を使って説明してみましょう。
現代語でふつうに使われる「〜う/〜よう」や「〜ましょう」も、
「〜まじ」同様に、隠れている主語の違いで意味が分かれます。
・いい天気だなあ。きょうは外でご飯食べようっと。
…食べるのは私。⇒《意志》
・ねえねえ、外へ食べに行こうよ。きっと気持ちいいよ。
…食べに行くのは私とあなた。⇒《誘いかけ》
・このお天気は今しばらく続きましょう。
…続くのは、お天気。⇒《推量》
どれも「これから起きること」ですが、
1人称だと《意志》になり、
2人称を巻き込むと《誘いかけ》になり、
「天気」という3人称だと《推量》になっています。
*
「〜まじ」も同じです。
「許すまじ!」の主語は、「私」という1人称、
「(宮仕えを)すまじき」の主語は、一般論としての2人称、
「尽きまじ」の主語は、「盗っ人の種」で、3人称。
そして、それぞれに応じて、「〜まじ」の意味も、
《否定の意志》、《不適当》、《否定の推量》になる、と。
おもしろいですね。(ね?)
*
ところで、政府や企業や団体で不祥事があったとき、
責任者と思しき人が、苦渋の表情で記者会見に臨み、
たいがい、こういうことをおっしゃいますな。
まことに、あってはならないことで、遺憾に思います。
この「あってはならない」は、ちょっと古めかしく言えば、
きょうの例文「あるまじき」であります。
さて、では、この場合の「ある」の主語は?
そう、3人称です。
「収賄/不正会計/安全審査の手抜き/...」が、主語です。
つまり、これを正確に解釈するに、彼らは、
「あるはずのないことが起きてしまった。」と言いたいらしい。
「ボクの知らない間に起きちゃったの。」
ううむ。
素朴な日本語教師としては、思うのでありますよ。
本気で謝る気があるのなら、つぎのように言うべきではないかと。
まことに、してはならないことをしてしまいました。
そう、1人称で語るべきであろうと思うのです。
「私」という1人称で、主語を引き受けた文で、語るべきです。
*
痛ましいバスの事故でたいせつなゼミ生を失った先生や、
被害届を出したのに捜査を棚上げされた被害者や、
杭打ちの不確かなマンションを知らずに買わされた住民や、
原発事故でふるさとを捨てさせられた人たちならば、
あってはならないとか、あるまじきと言う資格があります。
でも、「した本人」が使っていい表現ではない、と思います。
よく、日本語は主語があいまいだ、などと言われますが、
決してそんなことはありません。
日本語は、明示しなくても主語がわかるしくみを備えた言語です。
しかし。
主語を明示しなくてもわかる、ということと、
主語をごまかしてもいい、ということは、ぜんっぜん違います!
しょせん、記者会見で頭を下げているあの人たちは、
「したこと」の責任を引き受けるつもりがないんだろうな。
何をしても笑って許されるのは、
猫だけですからね!
へそ天灰色しましまの向こうには、
これまたぐっすりお休み中のグリコ。
すまじきことは、何一つあるまじ。
猫には。
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あまり真剣に考えたことがなかったけれど・・・
『誠に遺憾に思います』はどの人らも,そう言えば,らしく聞こえるような
謝罪会見でよく聞くから自分も・・・的に聞き流していましたが
意志も誘いかけも推量も,なるほど解説をしていただいて
初めて「おぉ!!ホントだ!」と思いました ^^
凄い!!
した本人が言うと,確かにヘンですね ;
大臣も会社の偉いヒトも,日本語をもっと勉強すべきですよね (>_<)
(あれ??『〜すべき』は先日習いました ^^)
ウリちゃんのあんよ・・・
椅子の背もたれに乗っかってますね(≧▽≦)
触りたいです!!